読んだ本② 『デス・ゾーン』
落合博満さんが中日ドラゴンズで監督を務めた時の話を書いた『嫌われた監督』が面白かったので、ノンフィクションのマイブームが来た。そこで、開高健ノンフィクション賞を受賞したこの作品を購入した。
『嫌われた監督』が面白かったのは、自分自身が一番野球を見ていた時に一番好きなチームが落合ドラゴンズで、その時のことを詳細に覚えていたことが大きいと思う。そのうえで、その時には見えていなかった、実際にはこんな駆け引きがあったんだ、こんな苦悩があったんだと、小学生の自分にはわからなかったことが書いてあったのが答え合わせをしているようで面白かった。
『デス・ゾーン』は登山家のお話で、自分は山のことは門外漢なので同じように楽しめるか不安があった。しかし、事前知識ゼロで読んでいるうちに、話を理解するのに必要な登山の知識が自然と入ってくるような文章で、とても面白かった。少し山に詳しくなった気がするし、あまり明るいお話でないのに山に登ってみたくなった。主人公は栗城史多さんという登山家で、語りはその取材をしていた河野さん(この本の著者)。
河野さんは北海道のテレビ局勤めて、最初は栗城さんに取材をするところから関係性が始まる。そこから、栗城さんに振り回されて、ちょっと呆れつつも少し距離をおいて観察して、そのうちに距離が離れてしまって。そんな時に、栗城さんの死を知って、もう一度栗城さんと向き合い、関係者に話を聞き、というのが今回の書籍にまとめられている。
栗城さんには人間の弱さを感じつつ、愛される人柄があって、エンターテイナーの部分もあって。そのバランスでなかなか自分の弱いところに向き合えずに苦しんだ人に思えた。着実な実績ではなくて、プレゼンのうまさで、期待値を上げすぎてしまったことも大変だったんだと思う。前提として自分にそんな人々の耳目を集める才はないが、もし栗城さんと同じ立場になったら、似たような選択をしていそうだなと思った。
河野さんが観察し、取材し、客観視しながらも自分の意見も述べているところにテレビディレクターとしてのかっこよさを感じた。もちろん河野さん視点に寄っているところはあると思うが、それでも栗城さんのダメなところも良いところも感じるような内容で、読んだ人は栗城さんダメだなーと思いつつも同情したり愛着をもったりしていそうだなと感じた。